「チームを任せたはずなのに、リーダーだけが深夜まで残業し、メンバーは定時で帰っている……。」 そんな光景を目にしたことはありませんか?
リーダー自身は「自分が頑張ればいい」と思っているかもしれません。しかし、プロジェクト管理の視点から見れば、これは「リソース配分の致命的なミス」です。
今回は、真面目ゆえにタスクを抱え込んでしまうリーダーへの指導法を、具体的な事例とともに解説します。
【事例】優秀なA君が陥った「抱え込み」の罠
ある作業チームのリーダーを務めるAさんは、責任感が強く、実務能力も高い期待の若手です。その日、Aさんはこれまでメンバーが実施してきた作業の最終確認という、非常に重要なタスクを抱えていました。
そんな中、小さなトラブルが発生します。 調査の結果、急ぎで対応すべき2つのタスクが浮き彫りになりました。
説明資料の修正(Bさんの得意分野)
発注内容の修正(Cさんの担当範囲に近い)
時刻は16時。終業まであと少しです。 ここでAさんは判断を誤りました。
「今は自分の確認作業が立て込んでいる。トラブルの指示を出すのは、自分の仕事に区切りがついてからにしよう。説明する時間も惜しいし、最悪、自分が残業してやればいい……。」
結果、どうなったか。 Aさんが自分の確認作業に没頭している間に、メンバーのBさんとCさんは、自分たちが手伝えることがあるとは知らず、定時で帰宅しました。
Aさんは一人、静まり返ったオフィスで、自分の確認作業と、先ほど発生した2つのトラブル対応に追われることになりました。結局、作業が終わったのは深夜。Aさんは疲弊し、翌日のパフォーマンスも低下してしまいました。
なぜAさんはタスクを振れなかったのか?
Aさんを指導する前に、まずは彼がなぜ「振らない」選択をしたのか、その心理を分析する必要があります。多くの場合、理由は以下の3点に集約されます。
説明コストへの懸念: 「自分でやったほうが、説明するより早い」という思い込み。
責任感の履き違え: 「トラブル対応はリーダーである自分が背負うべきものだ」という美学。
全体最適の視点不足: 自分の工数(1人分)と、チームの工数(3人分)を比較できていない。
この状態で「もっと人に振りなさい」と精神論を伝えても、Aさんは「でも状況が……」と反論したくなるでしょう。指導には、論理的な「構造の理解」が必要です。
指導のポイント1:リーダーの仕事は「ボトルネック」の解消である
Aさんへの指導でまず伝えるべきは、**「リーダーが止まると、チーム全体が止まる」**という事実です。
今回のケースで言えば、Aさんが指示を出さなかったことで、BさんとCさんの「作業能力」というリソースが100%ドブに捨てられたことになります。
指導フレーズ: 「Aさん、君が一人で頑張った結果、BさんとCさんの手が空いてしまったよね。プロジェクト全体で見れば、『稼働できるはずの2人分のアセットを遊ばせてしまった』ということなんだ。これは大きな損失だよ。」
リーダーの役割は、自分が動くことではなく、「メンバーが動ける状態を維持すること」だと認識をアップデートさせます。
指導のポイント2:「15分の投資」で「数時間の自由」を買う
多くのリーダーが「説明するのが面倒」と言います。しかし、ここを数値で示してあげましょう。
Aさんが自分で2つのタスクをやる:合計3時間
BさんとCさんに説明して任せる:説明に各15分(計30分)+メンバーの作業2時間
Aさんの持ち時間は30分の消費で済みます。残りの2時間30分を、Aさんは本来の「確認作業」に充てられたはずです。
指導フレーズ: 「指示出しにかかる15分を『コスト』と考えるのではなく、自分の数時間を確保するための『投資』だと考えてごらん。トラブルが起きたときこそ、まず手を止めて、周りに配れるカードがないか探すのがリーダーの最初の仕事だよ。」
指導のポイント3:権限譲渡は「信頼」の証である
Aさんのようなタイプは、「メンバーに負担をかけてはいけない」という優しさを持っていることもあります。しかし、それは裏を返せば、メンバーから「成長の機会」と「貢献の機会」を奪っていることにもなります。
指導フレーズ: 「BさんもCさんも、チームの力になりたいと思っているよ。君が一人で抱え込むのは、彼らを信頼していないと言っているのと同じになってしまう。トラブルの時こそ『助けてくれ』と言えるのが、本当に強いリーダーなんだ。」
具体的なアクションプラン:トラブル発生時の「3分ルール」
指導の仕上げとして、次回から使える具体的なルールを授けます。
【トラブル発生時の3分ルール】
トラブルが起きたら、自分の作業を即座に中断する。
3分間だけ、「このタスクを誰かに切り出せないか?」を全力で考える。
自分しかできないこと以外は、その場で(不完全な説明でも良いから)すぐに依頼する。
「完璧に整理してから振ろう」とするから遅くなるのです。「今こういう状況で、ここをお願いしたい。詳細は後で追うから、まずは着手してほしい」という**「不完全な依頼」**を許容させることが、スピード感を上げるコツです。
まとめ:孤独なリーダーを卒業させるために
Aさんのような真面目なリーダーは、決してサボっているわけではありません。むしろ誰よりもチームを思っています。だからこそ、その努力の方向が「自分への負荷」ではなく「チームの活性化」に向くよう、粘り強く伝えていく必要があります。
「夜遅くまで頑張ったね」と労うだけでなく、「もし16時にBさんに振っていたら、今頃みんなで飲みに行けたかもしれないね」と、別の未来を想像させてあげてください。
チーム全体の動きを俯瞰し、勇気を持って「タスクを手放す」。 それができたとき、Aさんは一作業員から、本当の意味での「リーダー」へと脱皮するはずです。


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